北朝鮮は16日午後、南西部の開城にある南北の共同連絡事務所を爆破した。
しかも爆破の様子を国営メディアを通じて映像でつぶさに公開し「完全に破壊した」と発表している。映像は30秒余りで、爆破音とともに連絡事務所の建物が爆発し、破片が勢いよく空中に吹き飛び、勢い余って隣にある15階建ての建物の壁までが崩れ落ちた。これはまさに政治ショーに他ならず、映像のインパクトによって南朝鮮に与える効果を最大化しようとしているものだろう。
放送では、アナウンサーが「人間のクズどもに懲罰を加えた」としたうえで、韓国政府に対して、「これは第1段階の行動だ。今後のふるまいに応じて、措置の強さと決行の時期を決める」と警告した。
北朝鮮は、金正恩体制を批判するビラを飛ばした韓国の脱北者団体と、これを黙認したとして韓国政府を強く非難しており、キム委員長の妹の金与正が、次のような激しい言葉で共同連絡事務所の破壊を予告していた。
「南朝鮮(韓国)当局の下、クズどもが最高尊厳(正恩)を刺激した」
「人間のクズが人間の真似をして、あのような行為をするとは。汚い口で吠え立てる野良犬と同じだ」
「悪意に満ちた行為が、『個人の自由』だの『表現の自由』だのという美名の下に放置されるなら、南朝鮮当局は遠からず最悪の局面に陥るだろう」
一説によると、韓国がまいたビラが金与正とAVの画像を合成した低俗なものだったので激怒した、という噂もあるが、それにしても金与正のポジションで、このような激しい罵倒語が伝えられるのは異例とされる。
北朝鮮の狙いは?
それにしても、この「軟木連絡事務所の公開爆破」という行動にはどんな意味があるのだろうか。これが例えば南朝鮮側にある施設なら、越境行為、準戦闘行為になるところだが、この施設は北朝鮮側にある。爆破しても映像の派手さと裏腹に南朝鮮に対する実害はない。しかしこの施設は軟木融和の象徴であり、南朝鮮から15億ウォンの資金提供を受けて建設したものだ。これを「人間のクズ共に対する懲罰だ」と言って破壊するというでは、韓国および文在寅のメンツは丸つぶれである。
おそらく北朝鮮としては、停滞するアメリカとの交渉を再開させるために、仲介役を買って出ている文在寅の尻を叩こうという狙いもあると思われる。かつて旧宗主国のチャイナが「朝鮮人は犬のように叩いてしつけろ」と言っていた通り、同じ朝鮮民族同士、北朝鮮は南朝鮮の扱い方を心得ている。優しい顔を見せたり、譲歩してお願いしたりしても相手が動かないことを、彼らは熟知しているのだ。
金正恩の消息は
それにしても、過去こうした政治ショーの際には、金正恩も姿を見せていたものだが、今回は一切関与していないのも気になるところだ。金正恩については、4月に「死亡説」が流れたことがあった。米CNNが心臓血管の手術を受け重篤な状態にあると報道し、元駐英北朝鮮公使で脱北者の太永浩氏が、同局の取材に「ハッキリしていることは正恩氏が自分で立ち上がったり歩いたりできない状態」と明言したのだ。
『コリア・レポート』編集長の辺真一氏はこう語る。
「正恩氏には、以前から健康不安説が噂されていました。独裁政権で心を開いて話をできる相手がおらず、ストレスが溜まっていたのでしょう。一晩にワインを10本以上開けることもあり、喫煙量も相当多かった。体重は130kgになると言われ、時折苦しそうに胸へ手を当てる仕草も見せていました」(韓国紙記者)
先日、久しぶりにメディアに姿を露出した金正恩は、映像が過去の写真(2018年型)と細かく比較された結果、別人の可能性も高いとされている。かといって、2018年型が本物である証拠もないのだが、北朝鮮としては、一旦「金正恩は健在」という公式情報を発表できたことでよしとし、また細かく比較される映像資料を出したくなかったのだろう。
そうなると、対外的に露出するのは妹の金与正ということになるが、重篤説・死亡説が正しいとなると、金正恩不在のまま権力の委譲が進んでおり、手始めに叩きやすい文在寅の功績を叩いて存在感を示した、といった動機もあるのではないか。
文在寅と金一族が「韓国を北朝鮮に献上して南北統一する」という共通の目的に向けてどのように動いていくか。世界一迷惑な隣人を持つ日本としては傍観しつつ注意を怠らぬようにしたい。
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